「なぜ建築の仕事に進んだんですか?」
そんな話になったとき、これまで私はよく、
「進学のときに当時流行っていたドラマで、キムタクが建築士役をやっていたから」
と答えていました。
もちろん、それもきっかけのひとつだったと思います。
ただ、よくよく自分の昔を振り返ってみると、どうもそれだけではなさそうです。

私が小学校3年生の頃、
それまで住んでいたのはかなり古い借家でした。
そこから両親が家を新築し、新しい家へ引っ越しました。
子どもの頃のことなので、
住宅性能がどうとか、間取りがどうとか、
そんなことを考えていたわけではありません。
それでも、古い借家から新しい家へ移ったときの変化は、
子どもながらに大きな出来事だったのだと思います。
「自分の家ができる」という経験。
今になって振り返ると、
そのときに感じたものが、どこかに残っていたのかもしれません。
今では当たり前ですが当時としてはまだ珍しかったと思いますが、
わが家は両親ともに働く共働き家庭でした。
学校が終わって両親が帰ってくるまで、よく祖父の家で過ごしていました。
祖父は時計と眼鏡の小さなお店を営んでいました。
時計や眼鏡というのは、ただ商品を売るだけではありません。
調整したり、修理したり、細かな作業をしたり。
子どもの私にとっては、
手を動かして仕事をする大人の姿が身近にある環境でした。
その影響なのか、
将来は「モノづくりに関わる仕事がしたい」という気持ちが、
いつの間にか自分の中にあったように思います。
そして進路を考える年齢になった頃、
テレビでは建築を題材にしたドラマが流行っていました。
そこで建築という仕事が具体的な職業として自分の中に入ってきて、「建築学科に行こう」と決めた。
これまで私は、
その部分だけを切り取って「ドラマの影響です」と話していました。
分かりやすいですし、ちょっと笑い話にもなります。
でも、今になって考えると、
ドラマを見ただけで人生の進路を決めたわけではなかったのでしょう。
小学生のときに経験した、古い借家から新しい家への引っ越し。
祖父の時計と眼鏡屋で過ごした時間。
身近でモノを扱い、手を動かして仕事をする姿を見ていたこと。
そういう小さな経験が積み重なっていて、最後に「建築」という選択肢と出会った。
ドラマはきっかけというより、最後のひと押しだったのかもしれません。
家づくりの仕事に携わって、早いもので二十数年になります。
現場監督から始まり、
営業、設計、アフターメンテナンス、
そして工務店経営まで経験してきました。
今でも毎日が勉強です。
こうして自分の原点を振り返ってみると、不思議なものです。
小学3年生だった自分が、
新しい家へ引っ越したときに何を感じていたのか、細かなことまでは覚えていません。
それでも、その経験が何十年も経った今の仕事につながっているのだとしたら、
家を建てるということは、やはり家族にとって大きな出来事なんだなと改めて思います。
そして、家は完成したときだけのものではありません。
そこで子どもが育ち、家族の時間が積み重なっていく。
自分自身がそうだったように、
家で過ごした記憶が、その人のずっと先の人生に何かしら影響することだってあるのかもしれません。
そんな仕事に携わっていることを忘れず、
これからも一軒一軒の家づくりに向き合っていきたいと思います。
ご興味のある方は、ぜひ過去のブログもさかのぼって読んでいただけるとうれしいです。